トッカータとフーガニ短調


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↓まずは先に音楽スタートしましょう

※8:32、フーガ部分は2:30 -
 この曲は、トッカータとフーガニ短調という題名でもある程度知られていますが、それよりも冒頭部分の3音、「チャラリ〜」の方が通りが良いようです。
 深刻な状況が発生したときの効果音として、ベートーベンの交響曲第五番「運命」の冒頭の「ジャジャジャジャーン」と双璧をなす、「チャラリ〜」であります。
 もはや、BGMですらなく、テキストベースで通用してしまうほど色々なところで、多用されているわけです。言葉だけで実際の曲を知らない人も結構いらっしゃるかもしれません。「チャラリ〜」という言葉だけで効果を出せるため、マンガや映画・芝居・コントなどコミカルな内容のものでも言葉「チャラリ〜」の一言で、「危機的状況」「困っちゃった」ということを表現するのにも多用されています。それはいいのですが、嘉門達夫だけは絞めなくてはいけません。深刻な状況が発生したことを表すのに「チャラリ〜」はいいのですが、なぜ「鼻から牛乳」が続くのですか。やめなさい! なお、同じ意見の同志を発見しました。このサイトをどうぞ→https://www.kitsune-music.com/entry/2016/03/19/060000
 さて、脱線しましたが、正式名称は、ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲、トッカータとフーガ ニ短調 BWV565 であります。
 「小フーガ」のページで、『おそらくオルガン曲の中で最もよく知られている曲2つのうちの1つです』と書きましたが、そのもう一つがこの曲です。
 トッカータとは「触れる」という意味で云々と、調べるとなんにでも書いてあります。テンポの速い曲で自由な発想で書いてある曲ですが、バッハのトッカータはむしろ、何かに取り憑かれたような迸るような鋭く激しい曲想が涌いて出たときに採用される形式のような気がします。
 最初から、非常に激しく、鋭く、緊張が極めて高く、そのまま次々と展開して行きます。元々バッハの曲は川の水のようにどんどん流れていく心地よさがありますが、このトッカータは、険しい岩場を迸る急流であります。情熱のままにどんどんと音がたたきつけられるように展開し、そして、2〜3分で、短調主和音で終了します。終曲であれば、いわゆるバッハ終止(正式には「ピカルディ終止」)で最後は和らいで終わることの多いバッハの短調曲ですが、次にフーガが待っていますので、短調のまま、緊迫感を引き継いだまま終了します。
 次のフーガは、あれ? 比較的単純なテーマを他のオルガン曲のフーガほどきっちりとはしない自由な展開をしていくフーガがきます。トッカータの部分をかなり意識した造りになっており、パッセージや音型などトッカータの部分部分の模倣を使って統一感を出してあります。比較的自由に書いてある分、曲想は美しく、小フーガでもそうでしたが、展開部や自由走句が実に美しいですね。密度的にはトッカータ部分には負けますが、フーガもなかなかに名曲です。
 そして、フーガの形式的な要件をもちゃんと満たした後、それだけでは終わらずに、再びトッカータ部分のような曲想での後奏が付いています。なんとなく、あの強烈なトッカータ部分に押されて影が薄くなってしまうフーガでそのまま終わるのではなく、再びトッカータ部分の勢いを持って来て締めるので、全体として、『「トッカータ」と「フーガ」』という二つの曲でひとセットというよりも、非常に引き締まった一体感のある強烈な一つの楽曲として成立しています。これはトッカータとフーガというよりは、トッカータの一部分にフーガを内蔵したトッカータ、という構成ですね。もしフーガ部分が明瞭に独立していたら、フーガを単独に取り出しても名曲として有名になる筈のフーガではありますが、ガッチリとトッカータに取り込まれていて着脱不可能であります。
 さて最初にご紹介したこの動画では、演奏者の手元がかなりの時間映っており、鍵盤の操作と実際の音との関係を知ることができます。鍵盤を押してから音が出るまでのタイムラグはほとんどなさそうですが、鍵盤から指を離してから音が止まるまでには少しラグがあり、それから残響がさらに続くので結局かなり長い休止の時しか音は消えませんね。パッセージもかなりピアノなら鋭いスタッカートになるであろうすぐさま鍵盤から指を離す感じの弾き方で弾いていますね。このあたりは、「小フーガ」をご紹介したページに「オルガンという楽器の演奏の難しさ」について説明したあたりをご参照ください。
 さて、この曲も、ストコフスキーによるオーケストラ編曲版があります。まあクラシック音楽ロマン派の影響を強く受けた編曲・演奏ですので、なんかもう別物のスクリーンミュージックだかなんだかになっております。

※8:44
 ストコフスキー自身の指揮による1927年の録音です。SPでしょうか? 録音が古いので音質は悪いですが、演奏自体はなんかかなり派手派手です。
 オルガンでは、カール・リヒターが定番ですので、ご紹介しておきます。カール・リヒターの演奏は俗に「筋肉質のバッハ」といわれていて、こういう激しい曲想の曲だと実力発揮十二分という感じですね。

※9:35
 動画の背景画面に楽譜が出てきますが、トッカータとフーガの楽譜ではなくて無伴奏ヴァイオリンソナタかなんかだと思います。年配の方ではトッカータとフーガのイメージはこのリヒターの演奏の方で形作られたかもしれない、昔では有名な演奏です。

 さて、この曲は最近、バッハの真作では無いのではないか、といわれています(贋作説)。バッハの曲としてBWV番号が登録されている幾つかの曲について、同様の疑惑があり、そのほとんどは私が聞いても、あれ? これほんとにバッハ?と思うのですが、この曲だけは、贋作説には賛成できません。
 以下はwikipedia日本版からの引用です。
『偽作説の根拠は

  1.    バッハの自筆譜が現存せず、最も古い筆写譜が18世紀後半のものであること。
  2.    フーガの書法が異例であること。特に主題が単独で提示されるオルガンフーガ、および短調の変終止で終わるオルガン・フーガはバッハの全生涯を通じて他に例がないこと。
  3.    いささか表面的な減7の和音の効果や技巧の誇示が認められること。

などが挙げられる。』(引用ここまで)
 では論破していきましょう。
 (1)自筆譜が現存しないバッハの曲はいろいろありますので、自筆譜があればもちろんバッハが書いた(他の作曲家のを書いたのもあるので必ずとは言えないが)といえますが、写本譜などでしか知ることができない、あるいはバッハ自身の編曲譜の方だけが残っているという場合は多数あります。
 (2)フーガの書法が異例であるのは、最初の動画のところで「次のフーガは、あれ? 比較的単純なテーマを他のオルガン曲のフーガほどきっちりとはしない自由な展開をしていくフーガがきます。」と書いたように、たしかに異例です。ですが、それはまさに「オルガンフーガ」では異例であって、他の楽器用、特に、無伴奏バイオリンソナタ&パルティータで出てくるフーガはまさにこんな感じです。ですから、このフーガを見ると「オリジナルはオルガン曲ではないのかもしれない、ひょっとしてバイオリン曲?」という疑惑は持ちますが、その展開とフーガという技法のしばりの上での音楽性の高さとしては、バッハ以外にはとてもできそうもない仕上がりです。匠の技の匂いが充満しています。このフーガの仕上がりは、バッハ以外では無理でしょう、やっぱり。
 (3)表面的な減七……。バッハは減七大好きですから。あのG線上のアリアという長調でのんびりした曲でも減七が重要な場面でしっかり効果的に使われていますし、シャコンヌやパッサカリアなど延々と短調の続く曲では、うんざりするほど減七が繰り返しでて来ますから。

 ということで、この贋作説は、バッハのオルガン曲しか知らない人が、バッハのオリジナルオルガン曲としては違和感があるために、ヴァイオリンなど他の楽器の曲からの編曲で有るという視点を見落として、贋作ではないかと提唱したものである、と考えられます。
 なお、バッハのバイオリン曲から他の楽器や編成への編曲としては、器楽合奏への編曲がカンタータの中に散見しますし、バッハ自身が、気に入った自分の曲はよく使い回していたりしますので、バイオリンで書いてみたけど、気に入ったのでオルガン曲にして弾いてみた、みたいなことは実にあり得ることだと思います。
 それで、おふてこ別館の公式見解として、この曲はバッハ自身によるオルガンへの編曲版であり、その原曲は無伴奏のバイオリンの曲である可能性が高い、と提唱します。
 と思って調べたら、当然アマチュアのおふてこ管理人が思うことなどバッハのプロ(オルガンのプロではない)は当然考えるわけで、バイオリン原作説と、すでにバイオリン曲への復元した楽譜、およびその演奏まであるんですね。知りませんでしたorz
↓ということで、バイオリン独奏曲として復元した演奏をどうぞ(^o^)ノ

※8:45
 あ〜これはもう最初っからバイオリン曲ですね。バッハのバイオリン曲として実に自然です。
 バイオリンでの演奏を聴いて分かるのは、オルガンではなんとなく物足りない展開部分が、バイオリンでは結構見せ所、聴かせ処になっていたりするところです。また単旋律の美しい自由走句が多いというフーガの展開の仕方は、無伴奏バイオリンソナタ第1番のフーガ楽章によく似ていることも分かります。つまりオルガンではなんとなく違和感があった部分が、バイオリンで演奏することを前提で考えると納得いきますね。
 Youtube上では、他の人の演奏が見つからなかったので、これ一択でしたが、バイオリン演奏は実に見事ですね。上のリンクでご紹介した楽譜とは違う復元譜を使用してありますが、トッカータの部分は見事な復元です。フーガ部分については異見が多少はありますが、大きな問題ではありませんし、小さな事を素人がいくら思っても詮ないことで(・・、)q

 ということで、個人的には非常にすっきりしましたが、え〜と(←ここで我に返り思わず夢中になっていたことに気が付く)(・。・;;;;、
 と、とりあえず最後に、オルガンの楽譜をご自分でも確認したい方のためにこちらをどうぞ。


※8:37
 楽譜見出したら、なぜか目が離せなくなってしまいます。


 トッカータとフーガニ短調、ご堪能いただけたのでしたら幸いです。



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